5月2日(火)
コンビニが万引きの被害で閉店に追い込まれたのだそうだ。
ウェブ・メールでメール・チェック中、プロヴァイダーのトップ・ページで凄いニュースを見つけ驚く。夜に改めてネットで検索してみた。
東京・豊島区で、同じコンビニエンスストアを狙って万引を繰り返した少年グループ9人が、警視庁に逮捕された。
窃盗の疑いで逮捕されたのは、都内の私立高校に通う16歳の少年ら9人。
少年らは2005年11月、豊島区巣鴨のコンビ二店に「けんかをして追われている」と夜勤の男性店員(27)をだまして事務所などに入り込み、金庫から売上金17万円を盗んだほか、店の外のたばこの自販機から、現金やたばこ200個以上を盗んだ疑いが持たれている。
少年らは、2005年8月ごろから、この男性店員が勤務していた木曜日の夜ばかりを狙い、同様の犯行を50件以上繰り返していて、この店は2006年3月、経営が悪化し、閉店に追い込まれた。
少年らは「店員が注意してこないし、弱そうなのでやっていた」と容疑を認めている。
絵に描いたような悪循環
「店長から『最近、経営がうまくいっていない』とは聞いていたが、万引が理由とは…」と驚くのは近隣の主婦(65)。そして、「20年前からずっとコンビニで、1年半前までは大手コンビニチェーンだった。近くには学校も多く、昼には行列ができるくらい繁盛していた」と続けた。
しかし、1年半前に別のコンビニチェーンにくら替え。昨年8月ごろから少年グループが深夜に入り浸り、万引を繰り返すようになった。
「夜中に店に行くと、若いガラの悪そうな人たちがレジの奥をうろうろしていて驚いた。20代くらいの外国人の店員が1人だけいたが、何も言わなかった。友だちか何かとも思ったが…」とフリーターの女性(23)は振り返る。
少年たちは「気の弱そうな男性が店番のとき」を狙い、わざわざバイクで2、3人ずつ押しかけては、店内の缶ビールやパンを勝手に飲み食いするなど、次第に行動は万引からエスカレート。それでもこの“気弱”なアルバイトの男性店員(27)は、警察に通報もせず、店長に報告もしなかったという。
昨年11月11日未明には、この店員を数人で取り囲み、別動隊が事務所にあった売上金17万2500円に手をつけた。さらに、たばこの自動販売機のカギを奪い、店前の自販機から現金4万2200円とたばこ218箱(6万2500円相当)を盗んだ。
警視庁少年事件課は先月28日、少年9人を窃盗容疑で逮捕した。長年コンビニを経営してきた元店長(58)は「少年らにつぶされたも同然。男性店員も、もっと早く被害を報告してくれたら対策をとれたのに」と話しているという。
しかし、近所の住人は「万引が決定打になったにしろ、遅かれ早かれ閉店になったのではないか」と話す。「(元店長が経営する)足立区内の別の店舗がうまくいかなくて、この店自体は繁盛していたのに、しわ寄せで大手コンビニとの契約が打ち切られたと聞いた。全国区でない系列のコンビニになったが、品数の差は歴然。ATMも撤去され、客足が離れた」
別の住人も「人件費を削るためか、店員はいつも1人。しかも時給は夜間でも850円。日本人が働くわけがない。中国人や韓国人の店員が多かった。防犯カメラもなかった」と、店のセキュリティー体制に疑問を呈する。「万引は昼間も常態化していた。自分もバッグいっぱいに本や食べ物を万引している労務者風の男を捕まえたことがある。中国人の女性店員は、ぶるぶる震えながら110番していた」
店の不入り→店員削減→万引横行。絵に描いたような悪循環を元店長はどこまで把握していたのか。確認しようと豊島区内の元店長宅を訪れると、玄関前にはコンビニの什器(じゅうき)などが乱雑に置かれていた。室内には明かりがついていたが、呼び鈴を数度押すと、途中で電源が切られたらしく音がしなくなった。
捜査関係者は「店のあった地域は元来、昔からの住宅地で治安のいいところ。近くのコンビニが荒れているという話は聞かない。明らかにこの店が狙い撃ちされたのだろう」と話している。
FNN のヘッド・ライン・ニュースだと、単発の万引きが何度も繰り返されたような印象だが、『夕刊フジ』の記事だと、断続的な万引きというよりは、犯罪の常態化、あるいは小悪党による店への寄生といってよい印象を受ける。『北斗の拳』に出てくる村人とモヒカン刈りの悪党軍団の関係みたいな感じかな。
実は、近くに友達が住んでいたので、このコンビニに一度だけ行ったことがある。記事によると捜査関係者は「昔からの住宅地で治安のいいところ」と言っているが、巣鴨駅から非常に近いものの奥まった所で人通りは少なく、後知恵ではあるが、この様な事件が起こりかねないエア・ポケット的な立地と言えなくもない。私が行った当時は ampm だった(と思う)が、事件があったときはエリアリンクというコンビニになっていたとのこと。聞いたことがない。
東京・豊島区で同じコンビニを狙い万引を繰り返した少年グループ9人逮捕
情報ソースがテレビのせいか、 コンパクトな要約だがアッサリし過ぎている。検索したなかでは『夕刊フジ』のサイトが最もディテイルに踏み込んでいて読み応えがある:
(FNN HEADLINES 2006年4月28日 15:20)
万引数十回でコンビニ経営難…悪ガキ暴走のワケ
「若いガラの悪そうな人たちがレジの奥をうろうろしていて驚いた」って、そりゃ驚くワ。
(ZAKZAK=『夕刊フジ』ウェブサイト 2006年5月2日)
東京都豊島区巣鴨のコンビニエンスストアが3月、新装オープンから1年半で閉店となった。15−16歳の少年グループに目をつけられ、数十回にわたる万引で経営難となったのが理由だという。だが、どうして悪ガキをそこまで暴走させたのか?
5月7日(日)
この休みにゆっくりドナルド・フェイゲンのニュー・アルバム Morph the Cat を聴き込んでみたので、Morph the Cat の好きな曲ベスト3を発表したいと思います──といってもドナルド・フェイゲンをどのくらいの人が知っているのか定かではありあせんが、簡単な説明は3月29日(水)の日記および4月29日(土)の日記をご参照ください。第3位から発表し、各ぞれの曲に私なりのコメントをしたいと思います。ただし、音楽の理論的な話にはほとんど立ち入っていません。
ちなみに、ベスト3を発表と言いつつも、アルバムの収録曲は9曲なのです。個人的にはひとアルバムの収録曲は 10 曲以下、トータル・プレイング・タイムは1時間以下がよいと思う。このアルバムは丁度よい。デモ・テープ集やアウト・テイク集などの資料的な意味合いの高い音源であれば、もちろん収録曲が多ければ多いほど嬉しいが、アルバムをひとつの作品と考えた場合は適切な長さというものがあるはずだと思う。
ではさっそく、好きな曲第3位は──タイトル曲、M1 および M9 の "Morph the Cat"。
M1 "Morph the Cat" と M9 "Morph the Cat (Reprise)" でアルバム全体を挟むことで、「猫のモーフ」(Morph the Cat)がニュー・ヨークを通過する様子や、通過前後の変化を表現しているのだと思う。
ベースのリフから始まるクセのあるイントロをちょっと聴いただけで思わずニヤけてしまう。イントロの後にフェイゲンのヘタうまヴォーカルが続くと、「やっぱりこれだなぁ」ともう一度ニヤける。
ところで、M8 "Mary Shut the Garden Door" に添えられたフェイゲンの言葉の "Paranioa blooms when a thuggish cult gains control of the Government." (殺人カルト教団が政府のコントロールを握るとき、パラノイアが花開く。)という現象も、「猫のモーフ」の悪戯の結果だろうか。ちなみに、M8 "Mary Shut the Garden Door" は、日本版 CD のブックレット掲載のフェイゲンの言によると「この曲を書いたのは共和党大会がマンハッタンにやってきた直後だった」(p. 3)とのこと。私が M8 "Mary Shut the Garden Door" ではなく M1 および M9 の "Morph the Cat" のほうが好きなのは、ブッシュ共和党政権には否定的な価値判断を下しているフェイゲンが、「猫のモーフ」には善悪の価値判断を下していないところが興味深いからだ(機会があればいずれこの点についても考えてみたい)。それどころか、「猫のモーフ」はニュー・ヨークを漂いながら「ひと休みしてラテを一杯」(Stops a minute for a latte)、というお茶目な面すらもっている。
「猫のモーフ」というアイディアについては、フェイゲン自身が『Keyboard Magazine』6月号のインタヴィユーで答えている。モーリス・ラヴェルは、「夜のギャスパール」("Gaspard de la nuit" 1908)というピアノ曲のタイトルをアロイジェス・ベルトラン(Aloysius Bertrand)の詩から取ったそうだ(とフェイゲンは言っているが、厳密には、そもそもラヴェルは曲のモチーフ自体をベルトランの同名の詩(1835年執筆、1842出版)から得ている。ラヴェルの曲の正式なタイトルは 「夜のガスパール──アロイジェス・ベルトランによるピアノのための3つの音楽詩」"Gaspard de la nuit - 3 poemes pour piano d'apres Aloysius Bertrand")。フェイゲンが手に取ったアルバムの解説によると、その詩は「パリの街に降りてきて、窓の外から人間たちを観察する、幽霊のような猫の話」だという。実際には詩のなかにそのような箇所はないと判ったそうだが、フェイゲンはこの猫のアイディアを気に入ったのだとか(p. 17)。フェイゲンは、「猫のモーフ」を「世間を麻痺させる存在」「危険な媚を売る雄猫」(p. 18)と定義している。
3月29日(水)の日記の反復になるが、私は "Morph the Cat" の次の箇所が気に入っている:
そして、"have an ally" を「一致団結」と訳すのは明らかに誤訳だと思う。ヤンキースが「一致団結」するのではなく、新たな仲間・同盟者を得るのだ。この曲のなかでは、具体的には "an ally"=「猫のモーフ」のことだが、おそらく"an ally" という言葉が惹起する軍事的な想像力によって、リスナーにイラク戦争を想起させることを意図していると思われる。もちろん、イラクに展開した各国の軍隊は国際法に根拠をもつ "allies" ではなく、新たにでっち上げられた "Coaliton of Willing"(有志連合)という概念を軸にしたものであったわけだけれど。
空港の手荷物のX線検査に引っかかった後、美しい検査官が登場。主人公が衝立の後に連行され、金属探知器をかざされてボディ・チェックを受けているうちに興奮し、検査官に恋する、という変態っぽい話。
こういう話なので、歌詞カードには出ていない2コーラス目のBメロ後のキメのひと言 "Search me now!" がけっこう可笑しい。間奏の後、もう一度Bメロが繰り返された後のキメのひと言は、"Hee...ee...y ..., Now...." と少しヨレヨレになっているところが重ねて可笑しい。昇天しているのだろうか?
フェイゲンのラブ・ソングはいつもひと味違っている。巷にあふれるラブ・ソングのように、誰もが「これって私のことを歌っている」などと容易に自己を投影できるものではない。常にフェイゲンの特殊性が刻印された作品世界がそこにあるのだ。AOR とか アダルト・コンテンポラリーをきっかけに音楽を聴くようになったクセに奇妙なことだが、私はラヴ・ソングが好きではない。「曲が良い」とか「サウンドが良い」などとラヴ・ソングを部分的に肯定することもあるが、いまひとつ割り切れなかった。しかし、Steely Dan やフェイゲンやベッカーのラヴ・ソングはひねくれている。それゆえに素晴しい。
個人的に私は「オレの人生、そう簡単に代弁されてたまるか!」と虚勢を張りたいと心に決めている。従って、誰もが感情移入できる曲で泣くよりも、「どうかしてる曲」を聴きながら、作詞作曲者の脳味噌をニヤニヤと覗き見ることを愉しみたい。人類は補完されなくてよいのだ(古いか?)。
ただ、この曲も 911 が残した傷跡と無縁でない。テロ警戒による空港のセキュリティ強化が、曲の舞台装置として機能している。狂気に対して狂気、あるいは統制に対して堕落で応じる変態偏執妄想狂的抵抗者フェイゲン──先生とお呼びしてもよろしいでしょうか!?
M7 "The Night Belongs to Mona" 。
この曲は、911 を契機に昼夜逆転の生活を送るようになったらしいモナ(Mona)という女性の話。モナはマンハッタンの地上 40 階で夜ごと独りで踊り続ける。どこがよいと感じたのかは、いわく言い難いが、とにかくいいのだ。
この曲の特徴は、まずは構成。『Keyboard Magazine』6月号には「Aメロが7小節と半端なのも不思議」(p. 29)とあるが、私は「不思議」だとは思わない。トラウマによって昼夜逆転生活を送る「モナ」の脅迫神経症的で不安定な精神状態を表現するための仕掛けとして必然性があると理解している。
もうひとつの特徴は、他の曲には見られないことだが、ブリッジの部分(歌詞カードでいうと第5聯)で歌詞全体を説明・要約するような歌詞が登場することだ:
Blessed Yankees have an ally
歌詞カードの日本語訳では "Blessed Yankees have an ally" が「幸多きヤンキースは一致団結」になっているが、これでは意味が伝わらない。M8 "Mary Shut the Garden Door" の内容を鑑みると、"Blessed Yankees" はキリスト教原理主義に支えられたブッシュ共和党政権を含意しているはず。従って「幸多き」ではなく「神に祝福された」とか「神のご加護を受けた」など、キリスト教を示唆する訳にすべきだろう。ちなみに、ブッシュ共和党政権の隠喩として常勝軍団ヤンキースを持ち出しているアイディアが面白い。
When this feline comes to bat
Bringing joy to old Manhattan
All watch the skies for Morph the Cat
続いて、第2位は、M6 "Security Joan"。
Morph the Cat のなかで私が好きな曲、栄えある第一位は──
Was it the fire downtown
フェイゲンの詞において、ここまで平易な言葉で直接的にメッセイジが提示されることは珍しいと思われる。平易で直接的な言葉は、作品の解釈をひとつに閉ざしてしまいかねない。この曲を解りやすいからよい曲だと感じたとすれば、結局、私はリスナーとして怠慢なのかもしれない。ただ、敢えて破格に平易で直接的な歌詞を綴ることで作品の解釈を閉ざしてしまうリスクを犯してまで、伝えなければならないメッセイジがフェイゲンにあったのなら、ファンとしてはその意志を酌むのも悪くない。
That turned her world around
Was it some guy or lots of different things
We all wonder where she's gone
That sunny girl we used to know
Now every night we get the Mona Show
ドナルド・フェイゲンのニュー・アルバムMorph the Catの好きな曲ベスト3はここまで。また13年後にお逢いしましょう。