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守衛所日誌
思いついたことを、思いついた日に書く不定期日誌。

2006年3月後半

3月21日(火)

池袋に行ったとき、周辺を何となくウロウロしていたら、いい古本屋を見つけた。

 池袋駅から明治通りを新宿方面に少し歩いて、ジュンク堂書店、トルコ料理のカッパドキアを越えて雑司ヶ谷の手前当たりのビルの一階にいい感じの古本屋があった。ビルが工事中で危うく気付かずに通り過ぎるところだった。それに、私にとっては、ジュンク堂書店が事実上の「池袋の地の果て」なので、その先へはほとんど行ったことがなかった。

 古書往来座という店で、文学や演劇の本が多かった。それより何と言っても店内の雰囲気が非常によい。今回は特に何も買わなかったが、また行ってみよう。


3月26日(日)

最近は、撃退の甲斐あってか、だいぶんスパム・メールが減ってきた。おそらく今でも送ってきているのは2組のスパマーだけになったようだ。

 そのうちのひと組が奇妙で、変な株式情報のようなスパムなのだが、添付ファイルの画像に英文で株式情報がかかれているだけでなく、同時に、どういう訳かテキストでチャールズ・ディケンズの『デイヴィド・コッパーフィールド』(David Copperfield)の一説が引用されているのだ。一体どういうことなのだろう?

 不思議に思い、ネットを調べていたら、オンライン版 Business Week "Blogspotting" というブログを書いているスティーヴン・ベイカー(Stephen Baker)という人にも同じようなスパムが送りつけられているらしい:

October 08, 2005

Spammers picking up a taste for classics

Stephen Baker

The latest spam I opened includes snippets of Charles Dickens' David Copperfield to sneak past the spam filter:

Mrs. Crupp, who had been incessantly smiling to express...sweet Yarmouth when the seamen said it blew great guns... I shook hands with Mr. Peggotty, and passed into the kitchen, while...

Just imagine trying to explain to Dickens how his work is being used in the 21st century. "You see, their bots crawl through the Internet and harvest lines of your work, which they generate randomly..." He might respond: Couldn't those...'bots' at least quote entire paragraphs?

アメリカ人が喜びそうなオチだけど、私の疑問は解けぬまま。

3月29日(水)

ドナルド・フェイゲンのニュー・アルバムMorph the Catを聴く。

 説明しておくと、ドナルド・フェイゲンとは、音楽史上に輝く革新的バンド Steely Dan のヴォーカリスト/キーボーディスト。Steely Dan は、ロックの殿堂入りも果たしている。日本ではマイナーなのかもしれない。知る人ぞ知るという感じか。私が面と向かって話した人のなかで、Steely Dan を聴いたことのある人は今までひとりしかいない。

 今回のアルバムは、外資系の CD ショップでは輸入版が少し早めに並んでいたが、解説や訳詞も見たいので日本版を待った。別に英語が解らないわけではない。ただ、フェイゲンSteely Dan の歌詞(いずれもフェイゲンが書いている)は──ビート・ジェネレイションの影響を受けていると思われるが──難解で、それゆえ愉しい。少しでも読解のための情報があると嬉しいが、今回のブックレットの解説はいまひとつかゆいところに手が届かない感じだった(洋楽 CD の解説は概してそういうものか)。そうだ、作品の唯一の解釈を求めるのは怠慢だ。Morph the Catを「開かれた作品」として愉しもう。

 解説でひとつ面白かったのは、アルバム発表の動機を聞かれたフェイゲンの答は、

『エヴリシング・マスト・ゴー』をリリースした後、アメリカをツアー(24本)したんだが、出来は素晴しかったよ。で、ツアーを終えた後は、私は56丁目の靴屋に仕事を得てね。奇麗なローファーとかオックスフォードとか、たくさんの靴を売っていたんだよ(笑)
と、まるで立川談志だ。

 作品自体は、タイトと言われればそうだが、ちょっともの足りない気もする。サウンドもメッセイジも Steely DanEverything Must Go (2003) の延長線上にある感じだ。帯の「13 年ぶりでも許してあげよう」というキャッチ・コピーの通り、フェイゲンの新作が聴けるだけで充分という気もするのだが……。

 前回のソロアルバム『カマキリアッド』Kamakiriad は、後部に水性栽培の農園を搭載した近未来蒸気自動車「カマキリ」に乗り込んだ主人公のロード・ムービー的な物語を通じて、フェイゲンの精神をたどる旅が表現されていた。歌詞の前に添えられたイントロダクション(あるいはアブストラクト)によると、最後の曲で主人公は、着陸したフライタウンという町で、未知への旅を決断するとのことだった。サウンド的にも軽やかさと明るさがあった。

 そして、ソロ三部作の最後となる今回のアルバムのテーマは「死」「終焉」とのこと。旅路の果てに辿り着いたものが「死」「終焉」というのは、皮肉屋のフェイゲンらしい。母の死、レイ・チャールズの死、そして911などが反映されている。陰鬱なトーンはこのテーマに対応したものだと思うが、ナラティヴ自体はシニカルなユーモアに満ちている。

 アルバムのタイトル兼1曲目のタイトル "Morph the Cat" の意味がいまひとつ解らない。詞には "A vast, ghostly cat-thing descending on New York City, bestowing on its citizens a kind of rapture." とコメントが添えられている。また、歌詞に出てくる、

"It's kind of like an arctic mindbath."
("mindbath" はフェイゲンの造語)
とか、
What exactly does he want
This Rebelaisian puff of smoke
To make you feel all warm and cozy
Like you heard a good joke
などから推測すると、911以降のニュー・ヨークにおいて、人びとの思考を方向づける力、あるいは「空気」が街の隅ずみに浸透する様子や雰囲気に "Morph the Cat" という名を与えているのだとは思うのだが、なぜ「猫」なのか? もう少し聴き込んででから考えよう。

 同じ一曲目の、

Blessed Yankees have an all
When this feline come to bat
Bringing joy to old Manhattan
All watch the skies for Morph the Cat
は、さすがフェイゲン節という感じか。凄い。

 今のところは、M7 "The Night Belongs to Mona" がベスト・チューンかな。

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