12月4日(日)
最近、児童が犠牲になる犯罪が多い。なかでも、広島の事件が気になる。
あくまでも、今回の事件を敷衍して、感想めいたかたちで持論を書いてみたい。
単身で日本に働きに来ている外国人は、誰とセックスしているのだろう?――日本人はこんなことを考えることはほとんどないが、当の外国人にとっては非常にシビアな問題だと思われる。
以前、東京電力のOLが、殺害され発見された事件が「東電OL殺人事件」として話題になり、佐野真一『東電OL殺人事件』(2000年;新潮文庫、2003年)に詳しい。この本は、ネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリ容疑者完全無罪説に基づいた事件の叙述をひとつの軸とし、東京電力の女性キャリア第一号で、経済懸賞論文での入賞歴もある優秀な人材である反面、毎夜、渋谷円山町の路上で客をとっては売春していた被害者の「大堕落」の賞揚をもうひとつの軸としている(「堕ちよ、滅びよと叫んで「大堕落」していったかに見える泰子に比べ、なぜ世間はこうも「小堕落」しているのだろう、という思いがよぎった」(p. 317)といった具合に、被害者OLの「大堕落」に崇高さを見出そうとしている。坂口安吾を引用しつつ、文学的な意匠で行論しているが、私にはただのオッサン趣味に見える)。
私はこの本を在日外国人の性に注目しつつ読んだ記憶がある。この本はマイナリ無罪説をそれなりに説得力あるかたちで叙述していると思う。しかし、マイナリとその仲間は、被害者のOLを度たび買っていた上客であったことは紛れもない事実だ。妻や恋人と共に来日しているとか、在日の外国人コミュニティーや日本社会に帰属できていれば別だが、そうでない場合「貨幣を直接の交換手段として用いることなしには性的コミュニケーションの相手を見つけるのが困難」な状況に陥る可能性が高い。その意味では、彼らは「社会的な性的弱者」と言えるのではないか。
「性的弱者」の問題は障害者のセックスを論題にして争点化して来た。宮台真司と田中康夫は、それぞれ別のところで、障害者は性的弱者であり、彼らがセックスできる機会を公的に保証する必要があると言っていたような気がする。宮台は「性の自己決定」を強調しつつ、「今日行なわれている売春行為の大半は、「売る女=弱者」「買う男=強者」というイメ−ジからはほど遠く、こうした通念はむしろ、買わない限りセックスできない性的弱者の存在を覆い隠してしまう」と主張していた(「自己決定原論―自由と尊厳」『<性の自己決定>原論──援助交際・売買春・子どもの性』(紀伊国屋書店、1998年) p.272)。
私は、「性的弱者に性的機会を」という主張そのものに断じて同意しないし、論理的な矛盾を感じるし、この主張は以下の点で妥当性が低いと思う。かの論理に基づけば、在日外国人の多くも「性的弱者」であり、売春の機会を公的に保証すべきということになる。性的弱者向けの売春の合法化を主張する以上、外国人向けの売春の合法化も同時に主張しないのであれば筋が通らない。「身体的理由による性的弱者」に認められるものを「社会的な性的弱者」に認めないのであれば一貫性を欠くし、「日本人の性的弱者」にだけ認め「外国人の性的弱者」に認めないのであれば人種差別ではないか。障害者のために売春婦を用意すべきと主張する人は、在日外国人のための売春婦も同時に用意すべきと主張するのだろうか?
在日外国人が「性的弱者」になる可能性は高いし、現にそうなっている事例に事欠かない。その場合は、彼らがセックスしようとすれば、金で買うことになる。買えない者は児童のような弱者を性的対象にする可能性が高まる。「性の自己決定」論者のなかには、これを逆手にとって「児童を護るために、外国人向けの売春の合法化を」という立論に持ち込むものも出てくるかもしれないが、児童の性と成人の性を秤にかけて、後者をセックス・ワーカーとして差し出すというのも結局は人権侵害に変わりない。
容疑者が外国人ということで、問題がより鋭いかたちで提示される結果になったが、「貨幣を直接の交換手段として用いることなしには性的コミュニケーションの相手を見つけるのが困難」な状況にある人は、外国人や障害者だけではない。性的ディスコミュニケイションという隘路を児童性愛という方法で通り抜けようとして犯罪に至る例は、これから増えることはあっても減ることはないだろう。
日系ペルー人の男を逮捕 犯行否認、動機を追及(共同通信 11月30日)
広島市安芸区の小学1年木下あいりちゃん(7つ)が下校途中に殺害された事件で、海田署捜査本部は30日未明、殺人と死体遺棄容疑で指名手配した日系3世ペルー人の安芸区矢野西、職業不詳ピサロ・ヤギ・フアン・カルロス容疑者(30)を三重県鈴鹿市の知人宅で発見、逮捕した。
カルロス容疑者は女児の通学路沿いのアパートに住み、事件直前、アパート前で被害者とみられる女児と話をしているのが目撃された。遺体が押し込められていたのと同じ箱のガスこんろも事件前に購入していた。
カルロス容疑者は容疑を否認しているが、捜査本部は「容疑を裏付ける物証がある」としている。捜査本部は30日午前、カルロス容疑者の身柄を海田署に移送し、アパートを現場検証した。殺害の動機や、遺体を段ボール箱に入れて人目に付きやすい空き地に放置した経緯を追及、犯行の全容解明を進める。
女子中生らに声掛ける 事件以前、頻繁に(共同通信 12月3日)
広島市安芸区で下校中の小1女児(7つ)が殺害された事件で、ペルー人のフアン・カルロス・ピサロ・ヤギ容疑者(30)が事件以前から、自宅アパート前を通り掛かる女子中学生らに頻繁に声を掛けていたことが3日、分かった。
以前の勤務先で同僚女性にセクハラ(性的嫌がらせ)行為をして、トラブルになっていたことも判明。海田署捜査本部は関係者から事情聴取し、ピサロ容疑者の事件前の行動についても調べている。
現場近くに住む中学2年の女子生徒(14)は11月上旬に2回、ピサロ容疑者の自宅アパート前を通ったときに声を掛けられた。ピサロ容疑者はアパート1階の部屋の前に座り、笑いながら話し掛けてきたという。
女子生徒は「何を言っているのか分からなかったが、変な人だなと思った」という。
逮捕のペルー人、偽名認める=県警、母国に身分照会−広島小1女児殺害(時事通信 12月4日)
報道が伝える範囲では、容疑者が児童性愛者(ペドフィリア)であるような印象を受けるが、「以前の勤務先で同僚女性にセクハラ(性的嫌がらせ)行為をして、トラブルになっていた」とか、相手を選ばずナンパしていたという報道もあるので、一概にペドフィリア問題として話を一面化できるかどうかは、目下のところ不明。続報を待つしかない。
広島市安芸区の小学1年木下あいりちゃん(7つ)殺害事件で、殺人などの疑いで逮捕されたペルー人の自称フアン・カルロス・ピサロ・ヤギ容疑者(30)が4日、広島県警海田署捜査本部の調べに対し、名前や年齢を偽っていたことを認めた。弁護士によると、偽名によるパスポート取得のため、必要な書類を約4000ドルでそろえたと話しているという。
捜査本部は外務省などを通じペルーに身分照会し、事実の確認を急ぐ。
12月6日(火)
LOHAS な人がブームらしい。NEWS23 でやっていた。
日曜日の朝に J-WAVE でも LOHAS SUNDAY という番組もやっている。 LOHAS とは Lifestyles of Health and Sustainability の略とか。
コンセプトには賛同する。生活に足場を置いた運動には可能性がある。何らかの社会運動について語るとき、民衆は専ら変革主体として描かれることが多く、民衆の最も日常的な存在様態である「生活者」として把握することが充分になされてこなかったことを、民衆史の泰斗、安丸良夫は強調している。この所説は、分析の位相においてばかりでなく、運動の実践の位相においても有効な視角といえる。ライフスタイルとして日常生活に定着すれば、社会運動は、文字通り sustainabe なものになりうる。
ただ、やり方が気に入らない。ヨガをやったり有機野菜を食ったり。単に、今時のハリウッド・セレブの猿真似ではないかとも思える。もちろん、「かっこいい」とか「真似したい」と思わせる工夫は重要だ。しかし、この「消費」は高くつく。マスコミ・広告代理店によって創られる文化は、決まって値が釣り上げられてゆく。先日、LOHAS アカデミーなるものが開催された場所が六本木ヒルズだったというのが象徴的だと言える。
スロー・フード運動もそうだった。スロー・フード運動の底流には反グローバリズムの精神が流れている。単に割高な有機野菜や無農薬野菜を食うことが目的ではない。LOHAS もスロー・フード運動と同じ、矮小化の轍を踏みつつある。平たく言えば、「チョイ悪おやじ」と同じ位相で語られて、流通し、消費されているということだ。これでは、消費のいちキャンペーンに過ぎない。
確かに、本来の目的や理念などはどこかへ消えても、定着したライフスタイルとして継続すれば、「生活者」による「ゆるい革命」は進む。それはそれで、なにがしかの成果を生むかもしれない。しかし、目的の矮小化・手段の物象化は避けたほうがよい。自分が何をやっているか解らないのは不幸である。
○安丸良夫「戦後思想史のなかの「民衆」と「大衆」」、小森陽一/ほか[編]『冷戦体制と資本の文化 1955年以後1』<岩波講座 近代日本の文化史 第9巻>(岩波書店、2002年)
12月11日(日)
今日も、「ラジオ深夜便」を聴いてしまった。
今回の「ロマンチック・コンサート」(音楽のコーナー、日曜日はジャズの日らしい)は、なんとウェザー・リポート特集だった。夜中に年寄りが寝ながら聴く音楽では断じてない。ただ、ウェザー・リポートを紹介するとき「コンボ」という言葉を使っていたところが「ラジオ深夜便」的かも。 アンチ・ジャズ派のリスナーからの抗議は必至(11月27日の日記を参照)。
リスナーの投稿のなかに、日曜日はジャズ特集の「ラジオ深夜便」を「ホット・ウィスキーを飲みながら」聴いている、とかいうのがあった。こういうのを聴くにつけていつも、オレも歳を取ったら年寄り趣味になるのだろうかと疑問に思うことがある。オレも、毎月3のつく日に巣鴨とげぬき地蔵の縁日にでかけたり、ゲートボールに興じたり、ジャズのお供にホット・ウィスキーを欲したり……。
ついでにテレビを点けてみたら、NHK 教育テレビのカラー・バー(放送休止時にテレビ画面に表示されるカラフルな画面)が斜めにスクロールしていた。地味な新機軸。目的は不明。
12月13日(火)
大人が子供と対等に張り合っても仕方がないのではないだろうか。
容疑者は窃盗の常習犯だったらしい。大学図書館で財布を盗んだ事件で、窃盗と傷害で執行猶予つきの有罪判決を受けていたとか。ただ、その窃盗と傷害の有罪判決と今回の殺人とに何か関係があるのだろうか。単に興味本位で報道しているのなら、感心しない。
小6女児、刺され死亡=23歳塾講師の男を逮捕−「口論になった」・京都府宇治市(時事通信 12月10日)
最初は、またペドフィリア絡みの事件かと思っていた。その後の報道に接してからは、幼稚で口下手な今どきの大人が、大人びて口が達者な今どきの子供に絶えきれずに刺した――そういう事件だと想像した。しかし、宮崎哲弥が某ラジオ番組で、この事件に性愛が絡んでいるかもしれないと仄めかしていた。なにか情報を掴んでいるのだろうか? とりあえず、現時点ではそのような報道はないが。
10日午前9時ごろ、京都府宇治市神明石塚、学習塾「京進宇治神明校」で、市立神明小学校6年堀本紗也乃さん(12)=同市開町=が男に刃物で刺された。紗也乃さんは病院に運ばれたが、間もなく死亡が確認された。110番で宇治署員が駆け付けたところ、男が刺したことを認めたため、殺人未遂の現行犯で逮捕した。
逮捕されたのは、同塾講師萩野裕容疑者(23)=同市寺山台=。府警捜査1課と同署は容疑を殺人に切り替え、詳しい状況や動機を調べる。
調べに対し、萩野容疑者は「生徒と口論になって包丁で刺した」と供述している。自ら同9時に110番し、9時12分に逮捕された。紗也乃さんは9時25分に死亡が確認された。