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追跡、コーヒーは本当はいくらなのか?(Tracking the true cost of coffee)
ラジオを聴いていたら、BBCの面白い記事が紹介されていたので訳してみました。この記事は、テレビ番組をウェブ向けにまとめたものらしいのですが、詳細は判りません。内容は、グローバリゼイションとコーヒー・ビジネスに関して、「価格」の側面からアプローチしたもので、生産者・輸出業者・加工業者それぞれの言い分が紹介されています。この記事を読んだ印象は、コーヒー・ビジネスは、グローバルな「薮の中」にある――と言った感じでしょうか。読む方に予断を与えないように、感想はこのくらいに留めておきます。

英語の原文と対照しながらお読みになることを強く推奨します。
 ○BBC NEWS | Business | Tracking the true cost of coffee
   http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/6637995.stm

この記事が紹介されたのは次の番組です:
 ○EARLY MORLEY BIRD(J-WAVE 81.3 FM、2007年5月13日5:00-6:00放送)
 ●81.3 FM J-WAVE : EARLY MORLEY BIRD
   http://www.j-wave.co.jp/original/earlymorley/

最後に3つだけ言い訳を:
(1)コーヒー業界に無知なゆえの誤訳が散見されると思いますが、ご愛敬。固有名詞の音訳に自信が無いものがいくつかあるので、自信の有無にかかわらず特殊と思われる固有名詞には原則として初出時に元の語を括弧に入れて示しました[例:イルガチェッフェ(Yirgacheffe)]。読んでいて「おかしい」と思ったときは、括弧の中のほうを信じたほうが賢明でしょう。

(2)BBC の記事の中に出てくる "roasters" という単語は、文脈無視で直訳すれば「焙煎する人たち」になると思いますが、記事の中では "farmers" や "importers" と並列の概念として使用され、コーヒー豆を最終的に商品化する「加工業者」を指すようです。したがって、日本語としてはしっくり来ませんが、両方の意味を想起できる「焙煎業者」の訳をあてました。

(3)また、"bn"(billion)は、アメリカでは「10億」、イギリスでは「1兆」を意味するようですが(中学時代はよく混乱したものです)、BBC の記事なのでイギリス風かと思いきや、文中では「10億」の意味で使われているようです(英語で読むとその理由が判ります)。グローバル化による規格統一がBBCにも忍び寄っているのでしょうか。


追跡、コーヒーは本当はいくらなのか?

2007年5月13日
MasaruS 訳

コーヒーは、世界中のほぼすべての国で様ざまなグローバル企業によって生産されており、グローバル化を追跡するのに最もうってつけの産品となっている。

BBCワールド・サーヴィスの番組『本当はいくら?』(The Cost Of...)は、1kgのコーヒーを、その生産国エチオピアから出発して、ヨーロッパやアメリカのおシャレなコーヒー・ショップにたどりつくまで追跡した。

エチオピアのイルガチェッフェ村(Yirgacheffe)では、農家の人びとは、地元の農業共同組合がつくった市場に実のついたままのコーヒー・チェリーを持ち込んでいる。

コーヒーは秤に掛けられ、それぞれの農家に代金が支払われる。この最初の段階では、1kgのコーヒー・チェリーの値段は、2.25ドル(1.12ポンド)である。

しかしながら、はるかに低い対価しか受け取れない農家もいる。その理由は、農業共同組合が利用できないところでは、農家は、即金で買い入れする仲買人によって市場のレートを下回る価格を提示されてしまうからだ。

収穫期のあいだ収穫作業に従事している、ロビー・シャーロウ氏(Robbie Shalo)は、1kgあたり3ブル――33セントでコーヒーを売っている。

「ここで働いても、生活するには十分じゃないね」

「この仕事が終わったら、家族を養うささやかなカネをつくるために自分の農場でも働くんだ」

「でも、食べるものもなければ、生き甲斐もない。これは、死ねってことだよ」と彼は言う。

市場レート

テイクアウト・コーヒー市場は、過去10年間で300億ドルから900億ドルへ三倍増し、減速の兆しはない。アメリカだけでも、2005年と比べた場合、去年は10%の増加である。

「近いうちに1日1ドルしか稼げないエチオピアのコーヒー農家が出てきますよ」とオックスファームのフェア・トレード・キャンペーンのセス・ペッチャーズ氏(Seth Petchers)は言う。

「利益分配に著しい不均衡が存在します――率直に言って、この不平等が続けば、コーヒー農家にとってもコーヒー産業にとっても、コーヒー生産は持続不可能になるでしょう」

世界中には、2500万もの小規模なコーヒー農家が存在する。近年、コーヒー価格は30年ぶりの最安値を記録した。

「コーヒー農家と話せば、彼らが今なお散々な苦境に直面していることを実感するでしょう」

「コーヒー農家にとっての見通しは今なお暗く、だから私たちは今なおこの問題に取り組んでいるのです」とペッチャーズ氏は付け加えた。

農家はコーヒーを地元の商社に売り、地元の商社がそれを取りまとめて、コーヒーを貯蔵・洗浄する集積地に運ぶ。

洗浄されたコーヒーは次に、海外市場への輸出の手はずが整えられ、キロ単価に数セントが上乗せされ、農業共同組合が農家に個別に利益を分配する。

売られているのは品質ではない

イルガチェッフェ・コーヒーは現在、首都のアジス・アベバへ運ばれ、競りにかけられる前に、コーヒー検査センターがコーヒーの格付け選果を行う。

しかし、イルガチェッフェ・コーヒーは稼ぎに苦労している。アジス・アベバのコーヒー検査センター長、ラッサン・オーリ氏(Lassane Ori)によると、イルガチェッフェ・コーヒーの華やかで香ばしい薫は、西洋人の舌には十分に評価されておらず、彼が本来の値段と感じる値が付かない。

「今日、世界のコーヒー市場では、コーヒーの品質が売られているわけではない」

「売られているのは、プロパガンダとプロモーションだ。私たちにはこのプロモーションが足りない。この点を考えなければならない」と彼は言う。

コーヒー流通で最も力があるのは焙煎業者

専門の輸出業者が現在払っている値段は、キロあたり3.85ドル である。

「私は満足していません。私たちが現在支払っている値段は、実は、海外のバイヤーから受け取っている値段よりも高いからです」と輸出業者ハイコフ(Haicof)社長、ゲタチュウ・ハイレ・ミシェル氏(Getachew Haile Michael)は言う。

「私たちがやろうとしているのは、コストを均すために他の地域から安くコーヒーを買い付けることなのです」

「焙煎業者は非常に高い儲けを得ています。私たち輸出業者は受け取るべきものを受け取っていないのです」

買い付けられたコーヒーは、近隣のジブチの海岸にある港に運ばれ、そこからアムステルダムの焙煎工場まで5,000マイル以上もの旅をする。

約70キロ入りの袋に入った生豆はアムステルダムに到着すると、汚れが落とされて焙煎される。コーヒーに付与される価値の多くはこの段階に由来する、と食品貿易の専門家で The Coffee Paradox の共著者、ステファノ・ポンテ氏(Stefano Ponte)は語る。

「焙煎業者は、コーヒー流通連鎖の中で最も力がある存在だ」

「大手焙煎業者の多くは、コーヒーの純価値を公表していない」

「しかし、マージンはいたって健全な範囲と見積もっていいだろう」と彼は付け加える。

コーヒーのコスト

24から28ヵ国がコーヒー豆の生産地として使われている、とアラン・ポンシュレ氏(Alan Ponsulet)は言う。彼は、コーヒー販売世界最大手のひとつ、スターバックス向けにコーヒーを世界規模で買い付けている業者だ。

「焙煎業者と農家のあいだにいる輸出業者は、輸出業者がビジネスに参加する必要があると農家に感じさせる何かをもたらさなければならない――さもなければ、農家は直接焙煎業者にコーヒーを送ってしまいますよ」

「焙煎業者として私たちには、そのような農家の方たちとともに働き、農家の方たちはニュー・ヨークのコーヒー市場については心配する必要はないと保証する責任があるのです。そうすることで、農家の方たちは、スターバックスのような焙煎業者が高値を付けて買うことができる上質のコーヒーを生産することに専念できるのです」と彼は付け加える。

通常、1キロのコーヒーから約80杯のコーヒーをつくることができる。ヨーロッパやアメリカの主要都市では、繁華街にコーヒー・ショップがひしめき、コーヒーは1杯3ドル以上で売られている――イギリスでは3ポンド(6ドル)にも及ぶ。全体では、コーヒーの値段は16倍上昇した。

スターバックスだけでも、1週間で4400万人、1年で22億人の客にコーヒーを提供している。

「コーヒー・ビジネスは、途方もない利益を上げるビジネスになっている」

「今に、コーヒー農家は0.5キロのコーヒーあたり1ドル以下しか稼げなくなるだろう。それに比べてそのコーヒーはべらぼうに多くの金をもたらしているというのに」とペッチャーズ氏は言う。

しかし、ヨーロッパ・コーヒー連盟(the European Coffee Federation)事務総長、ロエル・ヴェッソン氏(Roel Vaesson)によると、全体像はそれほど単純ではないようだ。

さらなるコストは、焙煎そのものに含まれる。焙煎でコーヒーの量が20%減少するからだ。その上、船による輸送、パッケージング、マーケッティング、そしてコーヒーを淹れるバリスタの給料、店舗の家賃もかかる。

「私が時どき思うのは、生産者や農家は自分が得ている対価を見て、次に消費者がラテに支払う3ドルだとか3ポンドだとかに目が行き、そしてそれを焙煎業者やカフェ経営者の利益だと考える」と彼は言い、「これは単純に間違っている」と主張する。

「コーヒーの買い付けとラテの販売のあいだには膨大なコストがかかっているのです。100%まるまる利益になると思われているが、そうじゃない。多くのカフェは帳尻合わせに四苦八苦しているのです」と彼は言う。

The Cost Of... is broadcast on BBC World Service at 1905 GMT on 9 May 2007.


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